僕の事務所の隣に、天才としか呼べない音楽家のスタジオがあります。オノ セイゲンさん。あの坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」にエンジニアとして参加されたり(まだセイゲンさんが、20代前半の頃!)、川久保玲さん率いるコムデギャルソンのショーのためのオリジナル楽曲の作曲や制作をされたりと、その天才ぶりは、とてもじゃないですが近寄り難いもののはず、、、でした。

出会ったのは、もう20年以上前のこと。たまたま僕が引っ越してきた事務所の隣に、セイゲンさんのスタジオがあったのです。住所表記も同じで、いろいろと話すようになった小さなオジサン同士(失礼)は、お隣さんになる以前から偶然つながっていたのを知ることになります。それはトヨタのアルファードという車の新発売キャンペーンの仕事でした。大競合を勝ちぬいて制作に至ったCMの音楽をセイゲンさんが、コピーを僕が、それぞれ担当していたのです。フランスの、あの俳優が起用されていた広告です。セイゲンさんと彼についての話をする中で、「ビールケースの上に立って、僕がスタンドインをやりたかったです(笑)」という冗談が妙にハマッてしまったらしく、それ以来セイゲンさんは僕のことを「ジャン」と呼びつづけてくれています。それはセイゲンさん以外の誰からも呼ばれたことのないニックネームなのですが。

近所の道端で会う度にツーショットで写真を撮ったり、お揃いのアディダスのジャージを着て出かけたり、三陸・雄勝の漁師から送られてくる活ホタテやホヤ(セイゲンさんの大好物)を分けあったり、おいしい卵や玉ねぎを一緒に購入したり、国立競技場近くのホープ軒のラーメンの品質向上の話をしたり。セイゲンさんと仲よくさせてもらっていると、本物の天才というのは限りなく無邪気であることを知って、とても愛おしい気持ちになるのです。


そんなオノ セイゲンさんが2019年に発売されたアルバム「CDG Fragmentation」に収録されているのは、セイゲンさんがコムデギャルソンのショーのために「音楽ではなく、でも音を」として作られた未発表の曲たち。ジャケットデザインは、同じく僕が敬愛するアートディレクターの井上嗣也さん(神様のような、やっぱり愛おしい天才です)によるものです。この作品は、2019年度のADC(東京アートディレクターズクラブ)のグランプリを受賞しています。そしてうれしいことに、このアルバムの中の「Goto Cu Niro(ゴート・ク・ニーロ)」と「Jean from 3rd street(3丁目のジャン)」という2曲は、セイゲンさんが僕の名前とニックネームをモチーフに曲名にしてくれました。こんなに幸せな無邪気が、あっていいのでしょうか。というか、この曲名で、本当に大丈夫だったのでしょうか。天才ではない普通の人間は、天才たちと過ごす時間を大切にしたいと思うので、また以前のように新橋のお蕎麦屋さんで、3人で一緒に飲める日を楽しみにしているのです。

小さなオンラインストア「アピスとドライブ」には、オノ セイゲンさんのアルバムも置いてあります。よろしければ、お店を見てみてくださいね。

https://apis-and-drive-shop.com/collections/music

 店主:後藤国弘

 

6月 27, 2022 — 後藤国弘