2011年3月11日午後2時46分に起こった東日本大震災。あの日は、どこにいましたか。僕は東京・外苑前の事務所にいて、本棚から崩れ落ちていく本を呆然と眺めているしかなかったことを覚えています。震災以前から縁のあった宮城の石巻に行ったのは、それから1ヶ月後の4月上旬のこと。大津波に襲われて泥に覆い尽くされた漁港の風景と、まるで胸の奥にこびりついてしまうようだった強烈な臭いを乗り越えたいと思い、僕は東北に通うようになりました。

そこからいろいろな縁が広がって、以前には日本で一番美しい漁村ともいわれていた石巻市雄勝町で、松永武士さんという若者と出会うことになります。ボランティアのメンバーとして雄勝に来ていた松永さんは、国の伝統的工芸品にも指定されている福島の大堀相馬焼(左を向いた馬の絵と青ひびが入った、二重焼きの湯呑みで知られていますね)の松永窯の四代目で、彼の故郷である浪江町には原発事故による避難指示が出されたままという厳しい状況の中で、雄勝町を訪れているとのことでした。雄勝の地は室町時代から六百年を越える歴史を持つといわれる硯の原料になる雄勝石が採れる場所でもあり、松永窯では三代目の和生さんが雄勝石を砕いた粉を大堀相馬焼の器の一部に釉薬として使ってきたことも教えてもらいました。


そんな松永武士さんからブランドづくりの相談を受けたのが、その硯に使われてきた雄勝石を砕いて全体を包む釉薬にして、じっくりと黒く焼き上げる新しい大堀相馬焼の器でした。福島・浪江と宮城・雄勝という、どちらも東日本大震災による津波で大変な被害を受けた町。そんな二つの町のつながりから新しい器が生まれることに、言葉にすると嘘っぽくなってしまうのが嫌なのですが、僕は希望のようなものを感じました。被災地としてではなく、ものづくりの町として、つながってほしいとも思いました。そして何より試作品として見せてもらった器の、硯の質感を生かしながら全体を包み込むような独特の深い黒の光沢が、本当に美しかったのです。


松永さんに提案させていただき、器の名前は、すぐに決まりました。「黒照:クロテラス」。この器を眺めていると、黒は闇の色などではなく、力強い光の色に見えてきます。その黒い光が、食卓の笑顔を照らし、みんなの明日を照らし、東北の未来を照らせるように。 そんな想いを込めさせていただいたつもりです。黒照は現在、福島県の最南に位置する西郷村に構えられた新しい松永窯の工房で焼き上げられています。機会がありましたら、現地を訪れてみてくださいね。地元の白河ラーメンも(有名店じゃなくても)とても美味しいですから!

けっしてネーミングの力というわけではありませんが(笑)黒照は、2017年度のグッドデザイン賞受賞して、多くのレストランやホテルなどでもご愛用いただけていることを、うれしく思っています。小さなオンラインストア「アピスとドライブ」では、別注でオリジナルのデザインの高台皿を作らせていただき、現在は次のオリジナルの器も準備中です。よろしければ、お店を見てみてくださいね。
https://apis-and-drive-shop.com/collections/croterrace

 店主:後藤国弘

 

6月 20, 2022 — 後藤国弘