今年の父の日は、6月19日の日曜日。僕の父は89歳になり、故郷の長野県諏訪市にある施設で暮らしています。実家のことは全て弟に任せっぱなしのダメな長男の僕は、高校を卒業する18歳まで、温泉や諏訪湖や諏訪大社(今年は、7年ごとに開催される御柱祭の年です。)などで知られる地で育ちました。

父のことを想うと、幼い頃に家族で通っていた近所の公衆浴場の風景を思い出します。諏訪全体が温泉の街であり、あちこちに湯気を上げている小さな公衆浴場が普通にあるのです。それは銭湯というのとも違う、それほど大きくない湯船といくつかの蛇口があるだけの、まさしく地元の住人たちのお風呂場でした。昔の我が家にはお風呂がなかったので、冬の寒い夜の帰り道では濡れた手拭いを振り回しながら凍らせて、兄弟で遊ぶなんてことも日常のことでした。

その公衆浴場でいつも会う、あるオジサンがいました。そのオジサンは両腕の肘から下がなく、あのフック船長そっくりの義手を左右に着けていて、いつも一緒に来ていた息子さんが脱衣場で二つの義手を外してから服を脱がせたり着せたり、髪や体を洗ってあげていたのを覚えています。まだ小学生にもなっていなかった国弘少年にとっては、その姿はあまりにも強烈に映り、じろじろと見てしまっていたのも仕方のないことだったのだと思います。そして公衆浴場とは、そういう場所でもあったのだと思います。そんな僕は、いつも父から怒られました。とてもとても怒られました。「どんな人のことも、そんなふうに見るな。」親としては極めて当然の教えだったと思いますが、その言葉を今でもはっきりと覚えているのは、きっと大事なことを言われているのだと、当時の僕にも感じることができたからなのかもしれません。

あらためて振り返ってみると、そんな父から教わってきたのは「品とユーモア」だったような気がします。それが今の自分にどれだけ備わっているかは別として(笑)大人になってからの僕が、日頃から大切にしているつもりのものです。いろいろとうまくいかない時も、つらかったり苦しかったりする大変な時も、品とユーモアがあれば何とかなる。何とかなりそうな気持ちになる。そうありたいなと思うのでした。すみません。もうすぐ父の日ということで、つい身内の話で失礼しました。


小さなオンラインストア「アピスとドライブ」では、父の日のギフト開催中です。よろしければ、お店を見てみてくださいね。
https://apis-and-drive-shop.com/collections/fathers-day

 店主:後藤国弘

6月 13, 2022 — 後藤国弘