旅が好きなもので、コロナの時代になる前には時々、海外への旅にも出かけていました。同じく旅好きの友人であるUさん夫妻と一緒に4人で出かける海外への旅は、なかなかにチャレンジングでもあったりして。大好きな旅に行くために仕事をしていたというような時期も、あったように思います。

旅には、予想外のハプニングがつきものです。そして、そんな旅の方が、記憶に残っているものですよね。インドネシアのバリ島を経由して行った、小さな島での話。その日は午後から船で沖へ出て、釣りとサンセットを楽しんで帰ってくるという何とも贅沢な予定のはずだったのですが、帰りに2つあるエンジンの1つが故障してしまいます。船は、もうゆっくりとしか進めません。やがて美しい夕陽も沈んでしまい、周囲は闇に包まれはじめます。こういう時は、だんだんと口数が減り、みんなが無口になってきます。そんな中、ふと空を見上げると、そこには満天の星という言葉以上に、無数に輝く星たちが広がっていました。それは、まるでスノードームの中に入って星空を眺めているかのような感覚でした。頭上にだけでなく、水平線までギッシリと貼りつけられたかのように輝く星たちは、まさしく人生最高の星空で。船のエンジンが1つ故障しなければそれを見られなかったのですから、不思議なものですよね。夜遅くまで船着場で待ってくれていた宿の支配人が、元F1レーサーのミハエル・シューマッハに似ていたことも、なぜかよく覚えています。

スペインのマドリードでレンタカーを借りてポルトガルのリスボンまで、山越えのルートで国境越えを目指した時には、まだiPhoneやGoogleMap以前の時代で、出発前に日本で準備しておいた地図だけが頼りでした。国境を越える前、スペインの山の中にいたのですが、その地図によると30分ほどで抜けられる山道が、走っても走っても風景が変わりません。美しい森と、小さな川と、そこに咲く花と、そこを飛ぶ蝶と。誰にも会わず、他の車とすれ違うこともなく、家を見ることもなく、車は進みます。そのうちに、やはりここでもだんだんと口数が減り、無口になってきたみんなが同じことを考えはじめます。「さっき大きな道路から山道へと曲がった時に、谷に落ちて死んでしまっているんじゃないか。今は、あの世を走っているんじゃないか。」そう思えてしまうくらい、その風景は本当に天国のようでした。いいえ、天国でした。その後で越えることになる山道の途中にあったスペインとポルトガルの国境には、拍子抜けするくらいの小さな看板しかありませんでした。

そして、上の写真はブータンのタクツァン僧院。標高約3000mの岩肌に貼りつくように建てられたチベット仏教信仰の聖地といわれるこの寺院にも、4人で歩いて登りました。ブータンの国土そのものの標高がとても高いので、3000mを歩いて登ったわけではありませんが(笑)その昔、ブータンに仏教を伝えた高僧がトラの背中に乗ってここまで飛んで来たという伝説が残る場所です。僕たちが訪れたのは、まだブータンが「世界一幸福な国」と呼ばれていた時代でした。それから国民が普通にiPhoneなどを使うようになって不幸になったわけではないと思いますが、あの旅の途中で、めちゃめちゃ辛いブータン料理と美味しくない(ゴメンナサイ!)バター茶を飲ませてもらった現地の農家のおじいちゃんとおばあちゃんの笑顔を、僕は懐かしく思い出すのです。また安心して、自由に旅へと出かけられる日を楽しみに待ちながら。

すみません。なかなか好きな旅にも行けないもので、つい以前に行った旅の思い出を書いてしまいました。さて、小さなオンラインストア「アピスとドライブ」の実店舗になる鎌倉店は少し工事が遅れてしまっていますが、10月の開店を目指して準備を進めています。私たちのお店も、鎌倉への小旅行の途中でお寄りいただき、思い出に残るような場所になれるといいなと思っています。
https://apis-and-drive-shop.com/


店主:後藤国弘
7月 25, 2022 — 後藤国弘