神野三鈴が井上ひさしを読む会
今回も、とても久しぶりのブログになってしまったことを、お許しください。この夏、7月23日の昼夜に当店で開催した『神野三鈴が井上ひさしを読む会』と題した朗読会のことを残しておきたくて、時間が経ってしまいましたが書かせていただきますね。
女優(いまは俳優と書かないといけないでしょうか?)の神野三鈴さんとは、昨年の5月に当店で開催した『松尾貴史が井上ひさしを読む会』にお客さまとしていらしてくださった時が出会いだったのですが、実は10年以上前に、ある葬儀会社のテレビCMのコピーと台詞を僕が書いた仕事がありまして、その中で友人だった故人を想う言葉を贈る女性の役で神野さんに出演してもらっていたのでした。僕は撮影には立ち会えなかったのですが、そのCMのことを印象強く覚えてくれていた神野さんとのご縁が、とてもうれしくて。そして当店のある鎌倉・佐助の地は作家の井上ひさし先生が亡くなるまでの時間を過ごした場所であり、井上作品の舞台にも数多く出演し、ご本人とも親交の深かった神野さんにとっても特別な場所であったとのこと。ご近所として奥様の井上ユリさんに日頃からお世話になっている僕たちにとって、いくつものご縁が重なってさらに幸せなものとなり、この朗読会につながったのでした。
おかげさまでお席は昼夜とも、あっという間に完売。小さな店でスミマセン。ご自身にとって、なんと初めての朗読会!になる神野さんが選んだ作品は小説『新釈 遠野物語』から河童が出てくる「川上の家」と、戯曲『太鼓たたいて笛吹いて』。どちらも小説として、戯曲として、神野さんが初めて触れた井上作品なのでした。昼の部では鮮やかな緑の竹林を背にして、夜の部では静かな闇を背にして。神野さんの朗読はお客さまを遠野の川のほとりに連れていってくれたり、みんなで一緒に歌を歌いながらまるで舞台の上に立たせてくれたりと、とても初めての朗読会とは思えない奥深い世界観に満たされたものになりました。お客さまからは「初めて朗読会というものに参加したのですが、兵庫から日帰りで来た甲斐がありました!」という声をいただくなど、皆さんの熱量と笑顔が本当に最高でした。
休憩時間には観客の皆さまへのサプライズとして(もはや、お約束になりつつありますが。笑)今回も井上ユリさんと準備した軽食をお出ししました。井上ひさし先生が締切に追われている時に好んで食べていたという筋子のお握りをユリさんご本人に握ってもらい、やはり先生が一番好きだったという山形特産のうす皮なすのあさ漬と加賀棒茶とともに、皆さんに召し上がっていただいたのです。井上ひさし先生がお好きだったものなどのエピソードをユリさんご自身が話してくれるのを聞きながら、みんなで同じものをいただくという至福。こんな幸せは何度でも味わいたいですが、たくさんのお握りを握ってくれたユリさんは「しばらく、お握りは握らないわ。」と笑っていました。そんなチャーミングな井上ユリさんが大好きなのです。次回の朗読会の時も、よろしくお願いしますね。笑
最後に、神野三鈴さんが朗読会のために寄せてくれた文章の一部を引用させていただきます。「アピスとドライブに迷い込んだ皆様へ。佐助の美しい竹林の中にひっそりと現れるこちらは、いろいろな世界への鳥羽口のような、オーナーのお二人のお人柄そのものあたたかで穏やかででも静謐。決して大きくないけれど、深くてどこまでも広がっている不思議な空間です。秘密の場所で待ち合わせしましょう。」恐縮です。こんなにうれしい言葉に応えられるお店にならなくちゃ、と強く思ったのでした。
店主:後藤国弘