大学の授業のこと
ご縁があり、僕は大正大学の表現学部で客員教授として、広告の企画表現についての授業を持たせてもらっています。きっかけは日本のCM監督の第一人者であるNさんから声を掛けられたことでした。「後藤さん、ちょっと大学の担当者と会ってもらえないかな?」というお誘いから話が動き出し、気がつけば今年で9年になります。大正大学(設立は1926年)は西巣鴨にあり、キャンパスは小さいですが(失礼)表現学部のほか社会共生学部や地域創生学部といったユニークな取り組みも多く、時代性も備えている大学だと思います。
9年前を思い出してみると、すみません。最初は、どこかで学生をナメていたのかもしれません。「今どきの大学生」そんなオジサン先生のつまらない思い込みは間違いだったと、すぐに知らされることになります。文芸やエッセイ、詩歌創作や広告コピーなど、クリエイティブライティングの技術全般を勉強したい学生たちは本当にマジメで、みんな積極的に学んでくれました。そのマジメさも、お昼休み後の授業では睡魔に勝てない時もあったりするので、どうやって一人も寝かさない内容にするかなども考えながら(苦笑)拙い授業を進化させてきたつもりです。僕は前期の担当なので、ちょうど今年の授業が終わったばかりで。
現在の授業は週に1日、100分を2コマ、それを14週間つづけます。授業の中で、ひたすら伝える(正しく言えば「伝わる」)ためのコピーや文章を書かせて、プレゼンテーションをしてもらう。その14週間の間に、コピーや文章の上達だけでなく、最初はプレゼンが苦手でオドオドと話していた学生も少しずつ、でも確実に自分の言葉でプレゼンができるようになってくる。その成長が愛おしくて、先生と呼ばれるのは好きではない僕も、たまらない気持ちになるのでした。先日の今期最後の授業では「終わってほしくない授業でした。」なんて言われて、ちょっと泣きそうになったりして。社会に出て広告の世界に進まなかったとしても、言葉を使わない仕事はありません。コミュニケーションに無縁の仕事もありません。コロナの時代になってしまい去年までの2年間の授業は完全リモートで、学生たちに会うことすらも叶いませんでした。それでも学生たち一人一人の未来に幸あれと、願わずにはいられません。「あれ?自分はそんな人間だったっけ?」と照れながらも、そう願わずにはいられない気持ちでいます。
そうそう、コロナ禍になって最初の頃のある日、こんなこともありました。大学の正門から入りキャンパスを歩いていると「学生さ〜ん!学生さ〜ん!」と守衛さんの声が聞こえてきます。周囲を見まわしてみても、どうやら僕のことを呼んでいるようです。学生たちが体温チェックのために必ず通らなければいけない順路があったんですね。そこを通らなかった僕は表現学部の客員教授であることを伝えると、その守衛さんは苦笑い。どうやら僕の坊主頭(正しく言えば「ハゲ」笑)を少し離れたところから見て、マスクもしていたし、大正大学の原点であり支柱である仏教学部の学生だと勘違いされたようでした。失礼しました。
さて、小さなオンラインストア「アピスとドライブ」の実店舗になる鎌倉店は工事が遅れてしまっていますが、10月の開店を目指して準備を進めています。私たちのお店も作り手さんたち一人一人の想いを、しっかりと「伝えられる」場所になれるといいなと思っています。
https://apis-and-drive-shop.com/
店主:後藤国弘