宮城県石巻市雄勝町。以前には「日本で一番美しい漁村」ともいわれていた雄勝の地は豊かな森と海に恵まれていて、降った雨が山に染み込んで湧水となり川に流れて海へと注ぐだけでなく、その海底からも伏流水となって湧き出しています。三陸ならではのリアス式海岸の特徴でもある山と海の近さ(夜に車で走っていて、大きな鹿に遭遇したこともあります。)が森の栄養を海の栄養にして、魚介類の餌となる良質なプランクトンを育んでくれるのです。7月頃からが旬の銀鮭をはじめとして帆立にホヤ、牡蠣にワカメなど、いろいろな海の幸を季節ごとに味わわせてもらってきました。雄勝に行くと、ありがたいことに僕は漁師たちの船に乗せてもらうのですが、おだやかな海の上で食べさせてもらう生の帆立の濃厚な味わいや、同じく生のホヤのフレッシュな味わい(それまでは、どちらかといえば苦手な食べ物でした。)は、もう最高に最高なのです。

東日本大震災をきっかけに僕は雄勝に入り、現地の漁師たちと出会いました。2011年3月11日に起こった大地震の震源地から最も近い町の一つだった雄勝は、押し寄せた津波によって町の8割が壊滅するという甚大な被害を受けてしまいます。はじめて雄勝を訪れた時に体感した、かろうじて流されずに残っていた公民館の屋根の上に大型の観光バスが乗っかったままの風景や、まるで胸の奥にこびりついてしまうかのようだった強烈な臭いを、簡単には忘れることができません。

普段(コロナの時代になってからは、なかなか会えていませんが)漁師のみんなとは一緒に飲みながら、ここにはとても書けないようなどうしようもないことを話して笑い合ってばかりなのですが、以前にある取材を通して震災について聞かせてもらったことがあります。銀鮭などを育てている漁師のハジメちゃんは「あの震災の後、正直にいえば漁師の仕事を辞めようと思ったこともあったんだよね。全てがゼロになったことで、外に出て他の仕事をやって生きていく自信もあったけれど、やっぱりこの海と暮らしたいと思ったんだ。避難所生活をしながら片づけのために雄勝に来ると、この潮の匂いで妙に落ちついて。ああ、ここがいいなと、戻りたくなる場所なんだよね。」と話してくれました。ホヤなどを育てている漁師のコウキさんは「自分たちの財産は海の中にあるもので、家だけじゃなく船も漁場も全て流されてしまって。4〜5年かけて育てたホヤも失ってしまい、そのサイクルを取り戻すにはどれだけの時間がかかるんだろうって。でも、他の漁師が頑張るなら、あいつには絶対に負けたくないっていう負けず嫌いな性格が湧いてきちゃったんだよ。」と。今では大好きな友人になってくれた彼らの明るい強さが、いつも僕の胸を打つのです。あまり褒めると調子に乗られるので(笑)これくらいにしておきたいと思います。

では、雄勝の銀鮭のお話を。お寿司(特に回転寿司ですね。)のネタでは世代を越えて人気を集めるサーモン(銀鮭)。雄勝の海は波が静かで生育に適していたことから、銀鮭の養殖が盛んになりました。漁師たちが毎日ていねいに餌をやりながら、おいしくて安全な銀鮭を育てています。程よく脂がのっていて、お刺身を少し凍らせたルイベが一推しの食べ方。もちろん、その他にも塩焼きやバター焼きにフライなど、お好みの料理でおいしく召し上がっていただけます。白ごはんとの組み合わせも、どれも最強。日本で食べられているサーモンは輸入品が多いのですが、三陸・雄勝にこんなにおいしい銀鮭があることを知っていただけたら、うれしいです。

小さなオンラインストア「アピスとドライブ」では、三陸・雄勝の海から直送する旬の銀鮭の販売が始まっています。発送は毎週金曜日。夏のギフトにも喜ばれます。よろしければ、お店を見てみてくださいね。
https://apis-and-drive-shop.com/collections/ogatsu-sodate

 店主:後藤国弘

7月 11, 2022 — 後藤国弘