とても久しぶりのブログになってしまいましたことを、お許しください。さて今回は、当店にて5月6日と7日に二夜連続で開催した『松尾貴史が井上ひさしを読む会』と題した朗読会についてのお話です。それは、4月14日〜5月14日まで開催した展覧会「松尾貴史  折り顔展  2023」の特別イベントとして企画したものでした。喫茶ギャラリー「アピスとドライブ」鎌倉店を開いた鎌倉・佐助の地は、作家の井上ひさし先生が亡くなられるまでの時間を過ごされた場所で、今でもそのお家には奥様の井上ユリさんが暮らされていて、ご近所として仲よくさせていただけるようになったのです。この春も、美味しい筍の見つけ方や掘り方やアクの抜き方を教わるなど、それはそれは日頃からお世話になっています。

しかも井上ユリさんは、出会ってから25年以上になる僕の友人でもある松尾貴史の舞台などをよく観てくださっていて、それどころか若きキッチュ時代!の、とんでもないモノマネなど(笑)のファンでいてくださったのです。そんな幸運すぎるご縁から、鎌倉でお店を始めてまだ半年ほどの私たちにとって夢のような企画が実現したのでした。「折り顔展」の中でも、キッチュ(普段から、こう呼んでいます)には井上ひさし先生の顔を折ってもらいました。こちらも大好評でした。


狭い会場なので物理的にもプラチナチケットとなり(笑)おかげさまで朗読会のお席は2日間とも完売御礼。前半は『十二人の手紙』から「葬送歌」を、休憩を挟んでの後半は『子どもにつたえる日本国憲法』からと『十二人の手紙』から「プロローグ 悪魔」を。キッチュの朗読は観客の皆様を一瞬にして物語の中へと連れていってくれるもので、お客様からも「井上ひさしさんの文章と松尾貴史さんの声が一体化したような瞬間がありました。言霊ですね。」とか「朗読って、聴く人を引き込むものなんだと思った夜でした。」など素晴らしい感想をいただきました。そして井上ユリさんからは「楽しい楽しい2日間を、ありがとうございました。1回だけじゃもったいないから、シリーズで開催してね。」というお言葉をいただけたことが、何よりも嬉しかったです。はい、そう遠くないうちに、また企画させていただきたいと思っていますので。

そしてそして休憩時間には観客の皆様へのサプライズとして、井上ユリさんと準備を進めてきた軽食をお出ししました。井上ひさし先生が締切に追われている時に好んで食べられていたという筋子のお握りをユリさんご本人に握っていただき、やはり先生が大好きだったという山形特産のうす皮なすの粕漬と加賀棒茶とともに、皆様に召し上がっていただいたのです。ユリさんが話してくださる井上ひさし先生がお好きだったものなどのエピソードを聞きながら、まさしく同じものをいただくという至福。それは何かを共有できたような、とてもほっこりと温かく、そしてこの上なく贅沢な時間になりました。鎌倉・佐助の地にお店を開くまでは、想像もしなかったことです。あらためて出会いの不思議さを想い、その出会いに恵まれている幸せを実感できたこの夜のことを忘れずにいたいと思います。これからも皆様にお楽しみいただけるイベントを企画したいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

                                                                                            

店主:後藤国弘

5月 18, 2023 — 後藤国弘